「夢じゃなかった」
涼は目を覚ますと、隣にいるレッチェを見てそう口に出した。
「涼、起きたの?」
「レッチェ」
「おはよ」
「おはよう」
レッチェはベッドから起きだし、身支度をする。涼もならってレッチェについていく。2階のレッチェの部屋から1階に降り、洗面台へと移動する。レッチェは顔を洗って歯を磨いた。
「はい、涼。これ新しい歯ブラシ」
「ありがと」
レッチェは髪を丁寧に梳かした。
「みんなもうすぐ起きだすから、そしたら申請の事、話そ」
「何か緊張するなあ」
「へーきへーき、涼ちゃんならすんなり受かるさ」
申請とは今日予定している、ファナイリファビリティーのギルドへの申請の事だ。
「具体的にはどんなことをするの?」
「簡単な適正検査だよ」
髪を梳かし終えたレッチェは涼を連れてリビングへ。3人掛けのソファーに座る。
「でも俺は大丈夫だとみてる」
「ホントに?」
何か根拠があるのか、レッチェは涼を見てにっこと笑った。涼は少しばかり不安だった。だが、窓から見える日の光がとても心地よく思える。暖かな日差しが、涼の身体を夢見心地な状態から目覚めさせようとしている。
「おはよう」
「おはよ」
「おはようございます」
レディアが身支度を終えてやってきた。
「早いわね、2人とも」
レディアはそのままラベンダー色のエプロンを付けて、キッチンへと足を向ける。
「朝食の用意ですか?俺も手伝います」
「いいのよ、涼。今日はゆっくりしてて」
「だってさ」
涼はレディアが自然と自分の名前を呼んでくれたことがとても嬉しかった。
「綺麗な人だね」
「何で小声なの?」
「だって」
照れくさいのか涼が小声になっていたことをレッチェは指摘する。
「言っとくけど、レディアには旦那がいるから」
「オリビアさん?」
「そう」
「うーん」
何か言いたげな涼にレッチェは問いかける。
「何?レディアの事が好きになったの?昨日の今日で?」
「違うよ!」
涼は慌てて否定する。
「昨日は言えなかったけど、オリビアさんってとってもカッコいいよね」
「は?」
今度はレッチェが否定しにかかる。
「何かそんな感じがしたっていうか…。雰囲気が凄いっていうか…」
「何?何言ってんの?」
「え?」
「涼ちゃん!俺の方がオリビアなんかより数倍カッコいいから!オリビアなんて目じゃないから!」
「何ムキになってるの?」
「なってないから!」
「あー!朝から喧嘩してるー!」
自然と声が大きくなっていた2人に、起きて来た紅がソファの隣に座った。
「紅、俺達喧嘩なんかしてねえから」
「そうだよ、紅。ちょっと話していただけだよ」
「ホントかなあ?」
紅は自分と一緒に来た黒猫のクロが足元でじゃれだしたのを、よしよしと撫でてあげる。
「クロ、おいで。ご飯あげる」
紅はソファから立ち上がり、クロのご飯を用意する。
「可愛い猫だね」
「クロね」
レッチェはソファでくつろぎ始める。伸びをして長い足もソファの上に置きゆったりと。数分経って、オリビアとテオルがやって来た。
「おはよう」
「おはようございます」
「はよ」
オリビアは涼に目をやり。
「涼、昨日はよく眠れたか?」
「はい!ありがとうございます」
「そうか」
「みんな朝ご飯よー!」
レディアが朝食をダイニングに用意している。
「行こうぜ、涼ちゃん」
「うん」
(誰かと朝食を食べるなんて、いつ以来だろう…)
涼は涙ぐみそうになったが、我慢した。
朝食を食べながら、今日の予定の事を話す。
「涼、今日はリグルデイダの街に、ファナイリファビリティーのギルドメンバー申請に行く」
オリビアが涼が気になっていたことを話し始めた。
「ファナイリファビリティーというのは、この星、レガント星のギルドを束ねている組織の事です」
テオルが付け足す。
「はい」
「ボク達SECHS(ゼックス)もそのファナイリファビリティーに属しているギルドなんだよ」
「涼はレッチェからこの惑星の話を聞いているか?」
「いえ、聞いていません」
「そうか、なら色々と話すことがあるな」
「で、リグルデイダまではどうやって行くの?歩きで行く?」
レッチェがリグルデイダの街までの行き方を決めたそうだ。
「いや、トレントに馬車を出してもらおう。涼はまずこの星の事を知る必要がある。向かいながら話そう」
「ありがとうございます」
隣に座っているレッチェが少しつまらなさそうにしたのを涼は勘づき、目配せをする。
「あ。まあ俺が色々話してもいいんだけど。俺もレガント星の全部を知ってるかって言われても知らないこともあるし」
「このレガント星出身なのはレディアだけなんですよ」
テオルがそう付け足す。
「そうなんですか?」
「そうなの。この銀河系には6つの惑星と少しの小惑星と
があるのよ。その6つの惑星の1つが、このレガント星なの」
「……」
「大丈夫?涼ちゃん」
「す」
「す?」
「凄いです!」
いきなり立ち上がった涼に、レディアとテオルはクスっと笑った。
「びっくりした」
「涼ちゃんもそう思うんだ!ボクもねこの星に勉強にきてるんだあ。一緒にお勉強しよ!」
紅まで立ち上がり、涼を引っ張ってリビングでぴょんぴょん飛び跳ねだした。
「ガキじゃん」
自分も十分子供だが、そのことはよそにレッチェはトーストをひとかじりした。
「ちょっとー!ご飯はまだすんでないでしょ!ちゃーんと食べなきゃダメよー!」
『はーい!』
「2人ともいい返事ね!」
レディアはクスクス笑った。
To be continued