SECHS1長篇小説第25話『眠れる騎士 3 その瞳に写るもの』。

投稿者: | 2021年4月16日

ティティの村はSECHS(ゼックス)ハウスのそばにあるサイフォンの街からそう遠くはない。カルテアの星の乗り物、バイクによく似た魔力で浮遊する代物―オリビアはアンダートーチと名付けたーそれに乗れば1時間も掛からないうちに着くだろう。定員は定められていないが、無理をすれば5人くらいは運べるのではないか。今はオリビアが運転し、テオルが乗っている。すでに景色は変わり始め、草原から田畑が見えてきている。

「ここら辺は大丈夫なようだが」

「そのようです。ですがティティの村はその奥にさらに畑があり、すぐ近くに森があります。畑を荒らしたものが人であれ、そうでなくとも、その森に潜んでいる可能性は十分考えられます」

「そうだな」

オリビアは呟き、スピードを上げた。

「来てくださったか」

「トリス村長」

ティティの村のトリス村長と村人たちが2人を出迎えた。

「それで、今回は?」

オリビアの問いにトリス村長と村人たちは顔をしかめた。

「…ティティの村の畑を、ここまで来る途中に見たと思うが、そこは荒らされてはいないんじゃ。問題はこの森に通じる畑じゃよ。ジャガイモやカボチャ、にんじん、トトルス、ガボ…全部ではないが広い範囲で何者かに掘り返されておるんじゃ」

「今日1日でか?」

「そうなのじゃ」

「わしらが一生懸命育てた野菜を一晩でこんなに荒らされてしまった」

村人たちは嘆いていた。

「誰か何か目撃した人は?」

「いや。誰もおらんのじゃ」

話しながらオリビアとテオル、村長と数人の村人がその荒らされた畑へとやって来た。

「これは…」

「根こそぎやられた感じですね」

「被害の出ていない場所もあるか…」

「そうなのじゃ。森に近い畑だけが荒らされておる」

畑はトリス村長が言うように、畑の一部分。森に面する場所のみが荒らされている。1つ1つ掘り返したというよりは、何か大きなものが根こそぎそこを掘り返して、野菜を奪っていったようにみえた。

オリビアはしゃがんで畑や土の状態を見た。何か手がかりがあるかもしれない。土にはよく見ると爪で大きくえぐったような跡がついている。土自体には何か液がついているわけでもなく、本当に作物を狙った行為だったのかもしれない。オリビアはその畑の先の森を見つめた。そしてテオルへと振り返った。テオルはオリビアを見て頷く。

「トリス村長。俺たちはこの森を探ってくる」

「お待ちくださいね」

そう言って先にオリビアは森へと入っていった。続いてテオルが。トリス村長は2人の若者に任せることにした。そして村人たちは待つことにした。また安心して日々を送れるようにと。

森はそう深いわけではないが、レイ(日)の当たる畑とは違い、高い木々が伸びレイの光を遮って、うっそうとした森に見せている。それでもオリビアの足取りは力強く、地面に何か痕跡が残っていないかを確認しつつ進んでいく。テオルも森を観察して歩いているようにも見えるが、それほどに森に興味を持っているようではなさそうにもみえる。歩いていると、オリビアは大きな爪の足跡があるのに気づく。

それが続く方向へと進んでいくと、途中からその足跡が小さい人の足のような大きさへと変化していっている。

「テオル」

「はい。この先に何かいるようですね」

その先には何が潜むのか。警戒を怠らずにオリビアは歩みを進める。異変は匂いからだった。獣とも思しき匂い、そしてこの辺では嗅ぐことのない異質な者の匂い。そして微かに臭うは血の匂いだった。この先に傷ついた獣がいる。そう判断したオリビアはなおのこと意識を向けた。ふとしたところで足を止める。木々の下。小さい掘りのようになったところに何かがいる。クマノスだ。熊に思しき、茶色の毛並み。立ち上がると体長3メートルにはなる野生のクマノスが傷つき倒れている。まだ生きているようだったが、こちらへ向かってくる体力すらないようだ。その足元に小さい人がいた。小さい人といっても子供のようで、クマノスに食べさせようとしているのか、野菜を持ってクマノスの口へと近づけている。オリビアはクマノスと子供を観察した。そしてこの異質な者の匂いから、子供が人ではないことに気がついていた。竜だ。

(何故こんなところにまた竜が…)

竜はそもそも6惑星の1つ、リヴァース星に生息している生き物だ。前回のヒュドラといい、この辺りになにかあるのだろうか。オリビアは慎重さを持ちつつも、その竜へと近づいて行った。クマノスと竜のそばへとそのまましゃがんだ。竜はオリビアに気付き、はっとしたが、別段攻撃をしかけてくることもなく、少し怯えた瞳でオリビアを見た。オリビアもまた竜と目を合わせた。そしてクマノスの傷の具合を見た。重症だ。皮を裂き中まで傷が達している。オリビアは竜に尋ねた。

「君がこの傷を?」

言われた竜はショックを隠し切れずに動揺した。そして沈んだ面持ちで頷いた。

「僕、びっくりして攻撃しちゃったんだ…。そしたらこんなに血があふれて…」

幼い竜は続ける。

「血を止めようとしたんだけど、止められなくて…。何か食べるものをと思ってそれで…」

「畑をあらしたのはあなただったのですね」

テオルも近づきオリビアの隣へと立つ。

「ご、ごめんなさい…!」

幼い竜はついには泣き出してしまった。

(あと僅かか…)

オリビアはクマノスの命の終わりがもうそこまで来ていると捉え、幼い竜に告げる。

「見守ってやるといい」

幼い竜は責められなかったことで、余計にうなだれてしまった。でも。再びクマノスにそっと寄り添い静かに見守った。オリビアとテオルも側を離れず、付き添っていた。

1分くらいだ。クマノスは息を引き取った。竜はクマノスの巨体が動かなくなり、静かな躯となったことを知り、瞳から大粒の涙をこぼした。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

オリビアとテオルは、竜が泣き止むのを少し待ってやる。だがいつまでも泣いていても仕方がない。オリビアは竜に尋ねた。

「君はどこから来た?」

「うっ…うっ…。僕、昨日までリヴァース星にいたの。星を眺めていたんだ。でもいつのまにか眠ってしまって。気が付いたらここに…。ここはどこなの?」

(星の道を通ったのか)

オリビアは確信した。星の道とは、元来それぞれの惑星の力を統べる者が、その星特有の力を使い星々を渡れる道の事だ。その惑星の星の港の側に普段はあり、星のエネルギー源から作られる。星の道の通過者は限られている。が、その星の道に、この幼い竜は偶然にも乗り合わせてしまったのだろう。滅多に無いことだが、ありえない話ではなかった。

「テオル」

「はい」

オリビアはテオルの名を呼んだ。それだけで、テオルもオリビアの意図していることを察する。オリビアは立ち上がり、木々の枝を広い合わせ。

「息吹よ」

オリビアの一声が魔法となり木々の枝がスコップに変化していく。幼き竜はそれに驚いた。

「何をするの?」

「墓を作ってやる。手伝うか?」

その言葉に竜は涙をぬぐって強く頷いた。オリビアからスコップを受け取り、テオルがよさそうな場所を見つけここをと。支持する。幼き竜とテオルは穴を掘り、オリビアがクマノスを担いでその穴へと埋めた。幼い竜はそこへ野菜を供えた。幼い竜は静かに墓の前で座っていた。オリビアは尋ねた。

「名前は何ていう?」

「僕、ピタ」

「ピタ。俺はオリビアだ。向こうはテオル。今からリヴァース星へ送り返してやる」

「本当!?」

「ああ。だが先に謝らねばならない人たちがいる」

「野菜の事です」

「あ…」

「ピタは竜の姿になれるんだな?」

「うん。リヴァース星では竜の姿で過ごしてるよ。でもここがどこだか分からないから、人の姿になったんだ」

リヴァース星以外の星で、竜の姿をしていれば、捕獲されてしまったり、退治されてしまう可能性もある。ピタの判断は正しかったと言える。

「そうか。もう大丈夫か?」

「うん!」

「なら行こう」

オリビアはピタを庇いながら歩いた。ティティの村へと戻るのだ。その様子をテオルは見ていた。そして想う。オリビアの胸中は今、いかばかりかと。竜に殺された父の事を想ってはいまいかと…。

                                      To be continued