草原を走る一匹の猫。
プリンセス・ティレイサの飼い猫のミミは、主の窮地を救うべく、ただひたすらに駆けています。
草原をキラリと走るその白い猫を、レッチェは樹の上から見つけました。
海のように、空のように、ただ光の加減で青く、または透き通るような髪を風がたなびかせます。
赤いジャケットを羽織り、黒いタンクトップに黒の皮のパンツ姿。レッチェは黒のブーツでトンと樹を蹴り、すっと猫が駆けていく進行方向の前にと降り立ちました。
猫はレッチェの足にぶつかり、動きを止めます。レッチェはその猫を優しく抱き上げ、眼を細めて撫でました。
「お前の主人はどこにいる?」
白い猫は、レッチェの瞳をのぞき込み、そこに信用にたるかどうか見極めたようで、レッチェの腕から抜け出し、駆けてきた道をまた戻っていきます。
レッチェはその後を離れずに。
1人と1匹の猫が駆けた先は、海を見渡す崖の先。
その崖の手前で猫はピタリと止まります。
それに倣ってレッチェも止まり、崖を覗き込みました。
「こりゃ…」
高さ20mというところか。
崖の中央の辺りから出ていた枝に、引っかかるようにして意識を失っている少女がいます。
それを見て、レッチェは特に臆することもなく、身軽にその崖に飛び込みました。
バランスよく、少女のいる枝を掴み、
「よっと」
またも軽々と、少女を肩に抱きかかえます。
案外丈夫な枝だな、と思いつつ、崖の上を見上げると、白猫が覗き込んでいるのが見え、レッチェはにっと笑いました。
トントンと、片手で崖の岩を掴み、足を上手くひっかけ、あっさりと崖の上に登ってきたレッチェ。
崖から離れた所で少女をゆっくりと地面に下ろします。
白猫がにゃーんと少女に心配そうにすり寄り、その様子を見たレッチェがまた白猫をひと撫でしました。
「お転婆って聞いてたけど、予想以上だったな」
そう呟いたレッチェ。
そのレッチェを遠くから見ていた、連中。
彼らは下卑た笑いを隠すこともなく、レッチェと少女に近づいてきます。
「ぎゃはははは!こりゃいい!」
「あの姫様を捕まえようとしたところで、崖に落ちちまったからな」
「礼を言うぜ、お嬢さん」
ため息すらつかずに、レッチェは彼らを見据えました。
「おお!こりゃこっちも売りもんになりそうなぐらい綺麗なお嬢さんじゃねぇか!」
「ひひひひ!いい土産になりそうだ!」
「あのさ」
レッチェはようやく彼らに口を開きました。
「褒めてくれたのはどうもだけど、俺はお嬢さんじゃなくて、”お坊ちゃん”なんだけど…」
「な、何!?」
連中は静まり返り、
「ぎゃははははははは!こいつは珍しい!こんな綺麗な野郎を捕まえられるなんてな!!」
「こっちのほうが、高く売れるってもんだぜ!!」
連中の反応にげっそりしながら、レッチェは、
「もういい?あんたたち盗賊だろ?悪いことは言わないから、この子の事は諦めて大人しく帰ってくれない?」
「がははははは!何言ってやがる!」
「いいから、その姫様を連れて、こっちに来な!悪いようにはしねぇから!」
「それはこっちの台詞…」
そう言って、レッチェは付き合うのも面倒になってきたようで、
「大人しく帰ってくれないんなら…しばらく寝てて?」
「は?」
レッチェは、アンティーダガーの刃を返し、棟を向け、連中の中へと飛び出しました。
レッチェは的確に、一点も外すことなく、大の男連中の身体の急所急所へと打ち付けます。
「ぐっ!?」
「がはっ!!」
男達はたちまち悶絶し、あっと言う間に5~6人いた盗賊たちをその場へと倒してしまいました。
スっと、アンティーダガーを仕舞い、レッチェはまだ気絶したままの少女の元へと戻りました。
「これってさ…」
辺りを見回し、草原以外何も見当たらない様子を確認したレッチェ。
「俺が城まで運ばなきゃいけないってこと…?」
金髪の少しウェーブがかった髪を、整えてあげて。
少女、プリンセス・ティレイサの事を少しめんどくさそうにして、レッチェは城まで運ぶことにしました。