オリビアはテオルと共に、竜の少年ピタを連れてトリス村長と村人たちが待つティティの村へと戻って来た。ピタはオリビアの後ろにくっついている。恐々とした面持ちで、これから勇気を出さねばならない。
「おお!戻られたか!」
トリス村長がオリビアたちに気付き、近寄ってくる。オリビアも歩を進める。
「トリス村長」
「して。どうであったか?」
オリビアはピタに促した。ピタはびくびくしながらも声を出した。
「ごめんなさい!僕がやりました」
「この子は?」
トリス村長は尋ねた。
「この子はピタ。訳あって畑を荒らしてしまったんだ。傷ついた魔物に食べ物をやろうとしていた」
「魔物に!?」
村人たちは動揺した。オリビアは続ける。
「魔物はもういない。この子が倒した。この村の脅威をこの子が払った。だからあまり責めないでやってほしい」
「魔物はもういない…のか?」
「この子は一体…?」
「心配しなくていい。この子もちゃんと家に帰る。この村の畑を荒らす者はもういない」
「ええ。安心してください」
「ふむ。お2人がそう言いなさるのなら」
トリス村長はピタに向き直った。
「ピタ。ずっと森の中にいたのかい?」
「うん…」
ピタは怯えながらも返事をした。
「そうか…。お腹がすいておらんか?」
「えっ?」
「オリビア殿、テオル殿。家へ帰る前に食事をしていかれぬか?この子も」
「ああ。そうさせてもらおう。ピタ」
オリビアはピタの頭を撫でた。ピタはそこでやっと笑顔が戻った。
「よかったですね。ピタ。この村の野菜はとっても美味しいんですよ」
「ホント?」
「何?知らなかったのかい?」
今度は村人たちが笑った。ティティの村の脅威が去り、トリス村長も村人たちも安堵したようだった。
SECHS(ゼックス)ハウスでは。レディアと涼がキッチンに立ち料理を作っていた。レディアは料理の腕は修行中というところだが、涼の方が手慣れていて上手いものだった。
「上手ねー。涼」
「そ、そうかな?」
涼は隣にいるレディアに照れながら、鍋をかき混ぜている。今日の料理はシチューのようだ。
「ホントよ。じゃがいももちゃんとあるわね~」
「もしかして溶けちゃうの?」
「そうなのよ」
「それは小さく切りすぎて煮すぎなのかもしれないね」
「そう。今度やってみるわ」
にこにこと笑ってくれるレディア。涼はこんな風に話をしてくれるお姉さんがいることに、全然慣れていなかった。
「それで…涼」
「何ですか?」
「あら、敬語じゃなくていいのよ?」
「うん」
「ふふ。涼は本当はオリビアたちと行きたかったんじゃないかなって」
「えっ」
涼はレディアに見透かされていたことに驚いた。鍋をかき混ぜていた手が止まった。
「なんだか少し、寂しそうにも見えたから」
「……」
涼は何も答えない。そう言われて急に寂しさが胸を締め付けた。レガント星に来て、同年代のレッチェと紅と話をするのは楽しかったけれど、中々オリビアやテオルに近づけないような気もした。オリビアを初めて見たとき、憧れもあったけれど、上手く話すことが出来なかった。涼は涙ぐんだ。
「涼!大丈夫?」
「俺…」
「ただいまー」
「ただいま」
そんな時、紅とレッチェが家へと戻って来た。
「涼…」
「……」
「わー美味しそうな匂いー!何作ってるの?」
手洗いうがいをすませた紅とレッチェがキッチンへとやって来た。
「涼ちゃん!」
レッチェは今にも泣きだしそうな涼を見て、すぐに涼の隣へとやって来た。
「どうした?大丈夫か?」
「俺…」
「涼、後で話ましょう。オリビアが帰ってきたらちゃんと、ね?」
「…」
涼は頷いて涙を拭った。
「あ、シチュー焦げちゃう!」
そう言って、また鍋をゆっくりとかき混ぜ始めた。
「涼ちゃん」
レッチェは心配そうな顔を涼に向けたが、涼の方は今度は大丈夫だよという顔をレッチェに向けた。紅も心配したが、レディアがそっと肩に手を置いてくれたおかげで安堵した。紅の足元には主人が帰って来たと黒猫のクロがじゃれつき始めている。紅はそのクロに餌をやろうと、抱きかかえてリビングへと向かった。
To be continued