涼はファニーの後を付いていった。
ファニーが案内したのは少しばかり大きめの武器庫だった。
「どうぞ、涼くん」
「わあ」
涼は感嘆の声を上げた。
中には様々な武器が並んでいる。とても涼がいた所ではお目にかかれない代物ばかり。涼はおずおずと中へと進んだ。ファニーも後から入ってきて。
「こちらの武器。どれでもお選びください。それを使ってサナストロスを倒していただきます」
「どれでもって言われても…」
涼は武器庫内を見回した。どれも重厚そうで威圧感を覚える。それでも見てみると、1つ。目にとまる武器があり、それに手を伸ばした。平たいツボに珠の柄の日本刀によく似た武器だった。
「それでよろしいですか?」
「えっと、はい」
「ではこちらへ」
涼はファニーに促されるまま、武器庫を出る。そしてそのままファニーの後を追う。ファニーが進んだ先は、少し広めの円形状のリングのような場所だった。リングと言っても小さめの、コーナーも何もない、マットも石畳もない、円形状の白い床と同じ続きのゲージがあるだけだ。そこが2か所開く仕様になっていて、涼はそこへ行くように指示された。そしてゲージの近くにはレッチェ、オリビア、テオル、レディア、そして紅がいた。
「涼ちゃん、その武器」
「これ?」
涼はゲージの中に入りつつ、レッチェに武器を見えるようにした。
「結構いいの選んだね。頑張って」
「うん!」
それを見て、ファニーは合図した。
「では涼くん。今からレガント星で最もポピュラーな魔物、サナストロス、通称サナと戦ってもらいます。勝利条件はだた1つ勝つこと。負けは死を意味します」
「…」
「ふふ、覚悟は出来ているようですね。では!」
ファニーが合図すると同時に、もう1か所の扉が開く。奥からサーモンピンクの背中にトゲのある魔物が出て来た。体長およそ1m。くりくりっとした緑色の瞳には愛嬌さへ感じる。
「涼ちゃん!すばしっこい奴だから気を付けて!」
涼は意を決して、鞘から刀を抜いた。刀は上手くするりと抜けた。黄みと青みがかった綺麗な刃をした刀は、冷たさよりも、その場を切り抜ける強さを感じることが出来た。涼は刀を構える。3歳の頃から通っていた剣術がこんな形で役に立つとは、涼自身も思っていなかった。先に動いたのはサナだった。短い2本の脚で地面を蹴って、涼へ一直線に向かってくる。涼はすかさず避けたが、サナの以外にも鋭い爪は空を切った。サナはいったんそこでゴロンと転がり、また涼へと向かってくる。涼は今度も避けることに成功した。そうしているうちに、すばしっこいと言っても、動きが短調なのが見えてくる。次で仕留める。涼はそう思い。すっと息を吐いた。サナはまた転がり涼へと向かってくる。涼はサナが爪を繰り出す前に、斬と、袈裟斬りにした。サナは少しばかりの悲鳴を上げることもなく、パタンと倒れた。
「……」
「やったあ!」
「やるものですね」
「涼…」
歓声を上げたのは、涼以外のメンバーだったが、涼も一呼吸置いて、刃を鞘へと納めた。
「お見事です!」
ファニーだ。
「俺、合格ですか?」
「風見涼くん」
「はい」
「見事テストを突破されましたね。こちらへどうぞ」
「はい!」
涼はゲージを出て、ファニーの所へ行った。レッチェ達も側に来ていた。
「こちらを受け取ってください。ギルドの証明バッジです」
「これが…」
金色の6つの星の形をしたバッジを涼は受け取る。それを受け取った瞬間に、バッジは光を放ち、涼の身体へと吸い込まれていった。
「!一体何が…」
「これはレガント星のギルド、ファナイリファビリティーの機関の者である証明になります。身体に吸い込まれたのは、その人それぞれの力によるものです。念じれば、またバッジに戻すことが出来ます」
涼は試しに、バッジが出現するように念じてみた。すると不思議なことに、ファニーが言ったとおりに、また手の平へと戻って来た。
「無くさないでくださいね」
「はい!」
「そしてその武器ですが…」
「これは」
ファニーは説明を続ける。
「見習い戦士より少し上級者が扱える、アントワンドソードです。涼くんなら、侍といったところかしら。ギルド入会の記念に、さしあげますわ」
「あ、ありがとうございます」
涼は初めて手にした真剣の重さが、今になって実感してきた。
「それでは、風見涼くん。ギルドSECHS(ゼックス)の一員として、より良い働きを期待しております」
「はい!」
そう言ってファニーはその場を後にした。
「涼ちゃん!」
レッチェはすかさず涼に抱きついた。
「やったね!やったね!」
「レッチェ!ありがとう!」
「ふ、良かったな」
「オリビアさ…オリビア、みんなも、ありがとう!これから、よろしくお願いします!」
「決まりね!」
レディアもくるくるの栗色の髪を揺らし、嬉しそうにはしゃいだ。
「ええ」
テオルもいつも以上ににこっと笑った。
「よろしくね!涼ちゃん!これから一緒に頑張ろうね!」
紅は大きく口を開けて笑った。
「じゃあさ、何か食べて帰ろうぜ」
「いや、トレントを待たせてある。今日はこれくらいにして、家へ帰ろう」
「そっか。そうだな。じゃ行こうぜ!涼ちゃん!」
「うん!」
レッチェは心底嬉しそうに、でも少し照れたように涼の隣で笑って見せた。これから涼がギルドSECHS(ゼックス)の仲間入りとなった。
この先、涼には一体何が待ち受けているのだろうか。それは涼自身が期待するものか、それとも…。
第2章 青い星の子 END
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