SECHS1長篇小説第21話『青い星の子 8 ギルド入会テスト』。

投稿者: | 2021年1月30日

 「着いたよ」

「ありがとう、トレント」

「ありがとー!」

6人はそれぞれ馬車から降りた。

「うわあ」

涼は感嘆の声を上げた。

リグルデイダの街。

そこはボルドーのレンガで統一された、壮観な街だった。

街の周辺は開かれて草原になっている。その開かれた土地に、ボルドーの壁。屋根はグレージュ。道はグレーのタイルで敷き詰められ、綺麗に歩きやすく補装されている。街の外からでも見える、ひときわ大きい建物、オペラハウスを中心とし、商業で栄えている。レガント星のあちこちから人が集まり、その賑わいを増していた。

「涼」

「あ」

「こっちだよ、行くぜ」

「うん」

レッチェが涼を呼び、メンバーは街の中へと進んでいく。

オリビアは少し後から。

「ここで待ってるよ」

「すまないな」

トレントに運賃を払った。

「オリビア、要らないよ」

「いや、取っておいてくれ」

「そうかい」

トレントはそれ以上は言わずに受け取った。

「じゃあ、行ってくる」

「気をつけてな。あのちっこい坊や、受かるといいな」

「ああ」

オリビアはみんなの後を追った。

街の中心部に来たところで、先頭を歩いていた紅は足を止めた。

「ここだよ!」

「ここが…」

そう言って、涼も紅の隣に来て、建物を見た。

リグルデイダの街並みに反することなく、整然とある5階建ての建物。入口に『ファナイリファビリティー・リグルデイダ支部』と書いてあるだけでとりとめて変わった場所は特に無かった。

「準備はいい?涼ちゃん」

「レッチェ。うん…」

「よし!行こ!」

紅は涼の手を引っ張って、中へ入っていった。

中は白い壁に白いカウンターがあり、受付には女性がいた。

「こんにちはー!ファニー!」

「あら、紅さん。こんにちは」

ファニーと呼ばれた女性はオレンジの髪をハーフアップにして背中まで伸ばし、グレーのスーツを着ている。

「ファニー、ギルド新規加入者。つれてきたから」

レッチェはそう言って、涼に瞳で促した。

「こんにちは!」

「はい、こんにちは。元気がいいのね」

ファニーは微笑ましそうに笑った。

「今から受付出来るか?」

オリビアはファニーに問う。

「はい!今すぐにでも。ではこちらへ案内いたしますね」

ファニーは受付を他の女の子に任せて、メンバーを案内した。

建物の奥へと入っていくと、そこは外から見ては分からない位の大きな空間が広がっていた。その手前にある部屋へと涼は通される。

「では、他のみなさんはこちらでお待ちください」

「え」

「大丈夫だって涼ちゃん、俺達ここにで観てるから。安心して行ってこいって!」

「涼」

「はい!」

「心配いらない。堂々とな」

「はい!」

オリビアに勇気づけられて、涼は息を飲みこんで、部屋へと入った。

「初めまして、私はファニー」

「俺は風見涼です」

「いいお名前ね。涼くんはそこに座って」

「はい」

涼はいくつか並んだ机の椅子に座った。

「では。ファナイリファビリティーのギルドには加入審査があります。それは身体、筆記、実技の3つになります」

涼は黙って聞いている。

「身体はここにある、スキャナーに立ってもらってスキャンします。人体には影響がないので心配いらないわ。これで基本的な能力を査定します。そして筆記。筆記はこう言っちゃなんっだけど、あまり意味はないわね。ちゃんとこの星の言葉が理解できるかどうかを問われているわ。そして実技です。実技はこの2つをパスしてから実行されるか判断されます。どう?質問はあるかしら?」

「あ、いえ…」

「じゃあ前に来て」

涼はファニーに言われるがまま、スキャナーの上へと立った。

「じゃあじっとしていてね」

「はい」

ファニーは装置を起動させる。涼の足元から黄色い光が上がってくる。その光は数秒で涼の頭を通過した。

「はいOK!じゃあ席に戻って」

淡々とこなされていく中でも、ファニーは笑顔を絶やさず、涼を安心させてくれている。次にファニーは1枚の紙と筆記具を涼に渡した。

「このペンで、用紙に書かれていることに記入してね」

「はい」

(中間試験を受けてるみたいだ。えっと、書くことは…。あれ?)

涼は基本的なことにようやくここで気づいたみたいだった。

(俺、どうしてこの星の言葉が分かるんだろう。普通にみんなと話しているけど…。この紙に書かれている文字も分かる…)

涼は咄嗟にファニーの顔を見たが、ファニーは笑顔でこちらを見返してくれるだけで、この質問に答えてくれそうにはなかった。答えの出ない問題に直面してはいるものの、紙に書かれていることには答えられそうだったので、回答していった。

「終わりました」

「お疲れさまでした」

ファニーは用紙を受け取り。

「では少しここでお待ちくださいね」

「はい」

ファニーは部屋の奥へと行ってしまった。

(どうだろう。これで良かったのかな…。俺勢いだけでここまで来てない?でも、レッチェに会いたかったし。俺、あの人たちの事まだよく知らないけど、何だか一緒にいたいって気がしてるし。それに…東京にいても…俺、1人だし)

今側にいてくれるレッチェや彼らの事を思うと、涼はここでパス出来なくて、離れてしまわないか、余計に寂しい気持ちに襲われた。

不安になりそうな中、ファニーは戻って来た。

「涼君」

「はい」

「涼くんは属したいギルドが決まっているから、彼らも来ているし、入ってもらいましょうか」

「…!はい」

「分かりました」

ファニーは外で待っていた5人を部屋へと迎え入れた。

「では結果を言います」

涼は祈った。

「身体、そして筆記ともに合格です」

「やった!」

涼より先にレッチェが口に出した。

「涼君は、青い星の出身ですね」

「青い星?」

青い星と言われて一瞬分からなかったが、涼は地球の事だと理解した。

「ですが、この星の文字や言葉を完全に理解していますね」

ファニーは続ける。

「涼君は、リアーカドルアの加護を受けているようにお見受けできます」

「?」

「そういう事になる」

オリビアが続ける。

「リアーカドルア?」

「この6惑星の創造神のことです」

「え?」

「言ったろ?心配いらないって」

レッチェが答える。

「青い星の子である涼が、リアーカドルアの加護を何故受けていたのかは分からない。だが、涼はここに居てもいいという事だ。そうでなくともな」

「オリビアさん」

「オリビアでいい」

「レッチェは知ってたの?」

「不思議な感じはしてた。でもそうでなくても涼は俺にとって特別だから」

だからきっと大丈夫と。

「では。続きをお話します。スキャンの結果、涼君は刀を使うことにほんの少し優れているようですね。これは何か訓練していたのかしら?」

「少し前まで剣術の稽古をしていました」

「そうですか。身体能力は普通。握力や筋力ともに普通。ですが、秀でた頭脳をお持ちの様ですね」

「いいでしょ」

レディアが仲間を褒めるように言った。

「そして、法力の力はないようですが、魔人力と呼ばれる力にほんの少し反応があります。それに何か別の力がおありの様です」

「別の力とは?」

テオルが尋ねた。

「このスキャナーは最新鋭のモノですが、それでも読み取れないようです。そんなところでしょうか」

「はあ」

涼はあまり実感が湧かない様子だった。

「それでは、次の審査、実技に移りたいと思います」

「!」

「頑張れ!涼ちゃん!」

「え、実技って実際に何を…」

ファニーは笑顔を崩さない。

「こちらに武器を擁しております。それで実際に魔物を倒していただきます。魔物の名前はサナストロス、通称サナと呼ばれる、レガント星では珍しくない魔物です」

「い、今からですか!?」

「はい」

「がんばって!涼ちゃん!」

紅はものすごく意気込んで涼を応援しているが、涼は1人で魔物を倒せと言われ、それどころではない。

「涼なら出来るよ」

「レッチェ…」

「涼、これは1つの道程に過ぎない」

「オリビア…さん…」

「自分を信じて、やってみるんだな」

「…はい」

何故だかオリビアに言われると、勇気が湧いてきた。

自分が少しでも憧れを持ったからだろうか。

「では。案内します」

 To be continued