「着いたよ」
「ありがとう、トレント」
「ありがとー!」
6人はそれぞれ馬車から降りた。
「うわあ」
涼は感嘆の声を上げた。
リグルデイダの街。
そこはボルドーのレンガで統一された、壮観な街だった。
街の周辺は開かれて草原になっている。その開かれた土地に、ボルドーの壁。屋根はグレージュ。道はグレーのタイルで敷き詰められ、綺麗に歩きやすく補装されている。街の外からでも見える、ひときわ大きい建物、オペラハウスを中心とし、商業で栄えている。レガント星のあちこちから人が集まり、その賑わいを増していた。
「涼」
「あ」
「こっちだよ、行くぜ」
「うん」
レッチェが涼を呼び、メンバーは街の中へと進んでいく。
オリビアは少し後から。
「ここで待ってるよ」
「すまないな」
トレントに運賃を払った。
「オリビア、要らないよ」
「いや、取っておいてくれ」
「そうかい」
トレントはそれ以上は言わずに受け取った。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてな。あのちっこい坊や、受かるといいな」
「ああ」
オリビアはみんなの後を追った。
街の中心部に来たところで、先頭を歩いていた紅は足を止めた。
「ここだよ!」
「ここが…」
そう言って、涼も紅の隣に来て、建物を見た。
リグルデイダの街並みに反することなく、整然とある5階建ての建物。入口に『ファナイリファビリティー・リグルデイダ支部』と書いてあるだけでとりとめて変わった場所は特に無かった。
「準備はいい?涼ちゃん」
「レッチェ。うん…」
「よし!行こ!」
紅は涼の手を引っ張って、中へ入っていった。
中は白い壁に白いカウンターがあり、受付には女性がいた。
「こんにちはー!ファニー!」
「あら、紅さん。こんにちは」
ファニーと呼ばれた女性はオレンジの髪をハーフアップにして背中まで伸ばし、グレーのスーツを着ている。
「ファニー、ギルド新規加入者。つれてきたから」
レッチェはそう言って、涼に瞳で促した。
「こんにちは!」
「はい、こんにちは。元気がいいのね」
ファニーは微笑ましそうに笑った。
「今から受付出来るか?」
オリビアはファニーに問う。
「はい!今すぐにでも。ではこちらへ案内いたしますね」
ファニーは受付を他の女の子に任せて、メンバーを案内した。
建物の奥へと入っていくと、そこは外から見ては分からない位の大きな空間が広がっていた。その手前にある部屋へと涼は通される。
「では、他のみなさんはこちらでお待ちください」
「え」
「大丈夫だって涼ちゃん、俺達ここにで観てるから。安心して行ってこいって!」
「涼」
「はい!」
「心配いらない。堂々とな」
「はい!」
オリビアに勇気づけられて、涼は息を飲みこんで、部屋へと入った。
「初めまして、私はファニー」
「俺は風見涼です」
「いいお名前ね。涼くんはそこに座って」
「はい」
涼はいくつか並んだ机の椅子に座った。
「では。ファナイリファビリティーのギルドには加入審査があります。それは身体、筆記、実技の3つになります」
涼は黙って聞いている。
「身体はここにある、スキャナーに立ってもらってスキャンします。人体には影響がないので心配いらないわ。これで基本的な能力を査定します。そして筆記。筆記はこう言っちゃなんっだけど、あまり意味はないわね。ちゃんとこの星の言葉が理解できるかどうかを問われているわ。そして実技です。実技はこの2つをパスしてから実行されるか判断されます。どう?質問はあるかしら?」
「あ、いえ…」
「じゃあ前に来て」
涼はファニーに言われるがまま、スキャナーの上へと立った。
「じゃあじっとしていてね」
「はい」
ファニーは装置を起動させる。涼の足元から黄色い光が上がってくる。その光は数秒で涼の頭を通過した。
「はいOK!じゃあ席に戻って」
淡々とこなされていく中でも、ファニーは笑顔を絶やさず、涼を安心させてくれている。次にファニーは1枚の紙と筆記具を涼に渡した。
「このペンで、用紙に書かれていることに記入してね」
「はい」
(中間試験を受けてるみたいだ。えっと、書くことは…。あれ?)
涼は基本的なことにようやくここで気づいたみたいだった。
(俺、どうしてこの星の言葉が分かるんだろう。普通にみんなと話しているけど…。この紙に書かれている文字も分かる…)
涼は咄嗟にファニーの顔を見たが、ファニーは笑顔でこちらを見返してくれるだけで、この質問に答えてくれそうにはなかった。答えの出ない問題に直面してはいるものの、紙に書かれていることには答えられそうだったので、回答していった。
「終わりました」
「お疲れさまでした」
ファニーは用紙を受け取り。
「では少しここでお待ちくださいね」
「はい」
ファニーは部屋の奥へと行ってしまった。
(どうだろう。これで良かったのかな…。俺勢いだけでここまで来てない?でも、レッチェに会いたかったし。俺、あの人たちの事まだよく知らないけど、何だか一緒にいたいって気がしてるし。それに…東京にいても…俺、1人だし)
今側にいてくれるレッチェや彼らの事を思うと、涼はここでパス出来なくて、離れてしまわないか、余計に寂しい気持ちに襲われた。
不安になりそうな中、ファニーは戻って来た。
「涼君」
「はい」
「涼くんは属したいギルドが決まっているから、彼らも来ているし、入ってもらいましょうか」
「…!はい」
「分かりました」
ファニーは外で待っていた5人を部屋へと迎え入れた。
「では結果を言います」
涼は祈った。
「身体、そして筆記ともに合格です」
「やった!」
涼より先にレッチェが口に出した。
「涼君は、青い星の出身ですね」
「青い星?」
青い星と言われて一瞬分からなかったが、涼は地球の事だと理解した。
「ですが、この星の文字や言葉を完全に理解していますね」
ファニーは続ける。
「涼君は、リアーカドルアの加護を受けているようにお見受けできます」
「?」
「そういう事になる」
オリビアが続ける。
「リアーカドルア?」
「この6惑星の創造神のことです」
「え?」
「言ったろ?心配いらないって」
レッチェが答える。
「青い星の子である涼が、リアーカドルアの加護を何故受けていたのかは分からない。だが、涼はここに居てもいいという事だ。そうでなくともな」
「オリビアさん」
「オリビアでいい」
「レッチェは知ってたの?」
「不思議な感じはしてた。でもそうでなくても涼は俺にとって特別だから」
だからきっと大丈夫と。
「では。続きをお話します。スキャンの結果、涼君は刀を使うことにほんの少し優れているようですね。これは何か訓練していたのかしら?」
「少し前まで剣術の稽古をしていました」
「そうですか。身体能力は普通。握力や筋力ともに普通。ですが、秀でた頭脳をお持ちの様ですね」
「いいでしょ」
レディアが仲間を褒めるように言った。
「そして、法力の力はないようですが、魔人力と呼ばれる力にほんの少し反応があります。それに何か別の力がおありの様です」
「別の力とは?」
テオルが尋ねた。
「このスキャナーは最新鋭のモノですが、それでも読み取れないようです。そんなところでしょうか」
「はあ」
涼はあまり実感が湧かない様子だった。
「それでは、次の審査、実技に移りたいと思います」
「!」
「頑張れ!涼ちゃん!」
「え、実技って実際に何を…」
ファニーは笑顔を崩さない。
「こちらに武器を擁しております。それで実際に魔物を倒していただきます。魔物の名前はサナストロス、通称サナと呼ばれる、レガント星では珍しくない魔物です」
「い、今からですか!?」
「はい」
「がんばって!涼ちゃん!」
紅はものすごく意気込んで涼を応援しているが、涼は1人で魔物を倒せと言われ、それどころではない。
「涼なら出来るよ」
「レッチェ…」
「涼、これは1つの道程に過ぎない」
「オリビア…さん…」
「自分を信じて、やってみるんだな」
「…はい」
何故だかオリビアに言われると、勇気が湧いてきた。
自分が少しでも憧れを持ったからだろうか。
「では。案内します」
To be continued