SECHS1長篇小説第27話『眠れる騎士 5 カーリー宇宙ステーション』。 

投稿者: | 2021年6月1日

 「ご馳走様でした」

「うむうむ」

竜の子供ピタはお腹いっぱいになったようで、トリス村長も満足げだった。

「ありがとうトリス村長。みんな」

「美味しかったです」

「いい男がそう言ってくれるんならこっちも作り甲斐があるってもんだよ」

「そうだねえ」

「なんでえ、俺たちじゃ不満ってか!」

村の女性たちの意見に男たちは不平の言葉を言いつつも、みな和気あいあいと笑っていた。

「俺たちはそろそろピタを送っていく」

「そうだったの!ピタや。気を付けて帰るんじゃぞ」

「ありがとうございます」

ピタはトリス村長や村人たちに深々とお礼を言った。そして。

「それではみなさん、また」

「失礼する」

「さよーなら!」

オリビアとテオル、ピタはバイクによく似た浮遊する乗り物、アンダートーチに乗り、発進した。ピタはティティの村を出てからも名残惜しそうに後ろを見ていた。

「ピタ」

「はい!」

呼ばれてオリビアの方に振り向く。

「これからピタを送るのに、カーリー宇宙ステーションへ行く」

「宇宙ステーション?」

カーリー宇宙ステーションは、レガント星南部に位置する。ここから少し距離はあるが、オリビアはアンダートーチを飛ばしていくつもりのようだ。宇宙ステーションは、6惑星間の移動に使われる、その名の通り宇宙船が往来している。6惑星間といっても、出るのも難しいが、入るのはさらに厳しく禁じていて中々人との往来が出来ないサイレント星や、人が住むには難しいとされる竜が住まうリヴァース星。そして星そのものが滅び今や誰も住んでいない星、カルテアの星。必然的に残りの3つの星の行き来が盛んになった。その1つ。今オリビア達がいるレガント星からリヴァース星へとピタを送り届けるには、星の道を偶然また通過するのを期待するよりも、宇宙船にピタを乗せる方が楽だった。幸いにも、人が住むには難しいと行っても、行き来を禁じているわけではなく船での往来は続けられているリヴァース星。ピタを船に載せることは可能だろう。そのままオリビア達は走り続けた。

夜になった。満点の星空だった。ピタはそうやく見えてきた建物に興奮した。

「あれ!」

「ああ。あれがカーリー宇宙ステーションだ」

「ピタ。降りる準備をしなさいね」

「うん!」

ライトが出らされる道々の中に大きい白い建物があった。ガラスの面積が広く、ここからでも中の明るさがよく伺い知ることができる。オリビアは駐車所にアンダートーチを止めた。3人は降りて建物へと向かった。ピタははしゃいでいる。足取りも早くなっていて。

「ピタ、転びますよ」

テオルにたしなめられるも、ピタは嬉しさを隠せないようだった。

「僕こんなところ初めて来た!」

「こっちだ」

建物に入ると、アナウンスが流れている。人も少なくはなく、ピタはあちこち振り向いた。

オリビアはピタをリヴァース星行きの宇宙船に載せるべく、受付へと向かう。受付の女性はオリビアにこう言った。

「リヴァース星への船はあと1時間で出発します。チケットは5000000ルルとなります」

「そうか」

ルルはレガント星でのお金の単位だ。1ルル1円といったところだろう。5000000ルルは痛手だったが、ピタのためにオリビアは支払った。

「楽しそうですね、ピタ」

「うん!人がたくさんいるね!」

「そうですね」

嬉しそうに笑っているピタの隣で、テオルはいつものようにニコニコと笑顔を見せている。

「ピタ」

「何ですか?」

「星の道を通った時のことを覚えていますか?」

「え?ううん。覚えてない…」

「そうですか。星の道は星が消える瞬間を見ることが出来るんです。眩いばかりの光を」

「光…?うーん。僕、見てない」

「ええ。いいんですよ」

「うん!あ、オリビアさんが来た!」

「どうでしたか?」

「ああ。無事に乗れる。ピタもう少しここで待っていよう」

「はーい」

オリビアはピタの隣に座った。

「ピタ」

「うん?」

「向こうに着いたら、帰り道は分かるか?」

「うん!リヴァース星で鳴いたらパパとママが迎えに来てくれる!」

「そうか」

オリビアは少しピタに話すことにした。

「ピタ、命は巡るものさ」

「めぐる?」

「ああ」

「じゃあクマノスの命も?」

「この星の輝きと共に、いつかまた地上に訪れる」

「そっか…僕、忘れないよ。オリビアさんの事も、テオルさんの事も。村長も村の人たちのことも」

「ああ」

オリビアはピタの頭をまたくしゃっと撫でた。

「リヴァース星への宇宙星まもなく発進します」

「ピタ、時間ですよ」

「うー」

「どうしました?」

「2人ともう会えないの?」

ピタは急に不安になったようだ。

「そんなことはない」

「ホント?」

「また会える。こんどは星の道じゃなく、ちゃんと船でまた来ると言い。でも今はちゃんとリヴァース星に帰るんだ」

ピタは今度はテオルの顔を見た。

「ええ。また会えますよ。さあ」

ピタは2人に言われてようやく決心したようだ。

「パパとママの所にちゃんと帰るんだぞ」

「うん!」

「無事を祈っていますよ」

「ありがとう!ホントにホントにありがとう!」

ピタは大きく手を振って、宇宙船へと乗り込んでいった。オリビアとテオルは宇宙船が発進するのを見届けて、カーリー宇宙ステーションを後にした。

                                       To be continued