「……なるほど」
オリビア達は男達から話を聞き終えた。
「あの屋敷にはとんでもない女がいやがる!魔人の力を持つ女が!」
「そうだ!俺達はそいつに命令されて…」
「逆らえなかったって?」
オリビアがつまらなそうに、そう呟いた。
「行くぞ」
「はーい」
オリビアは男達を置いて、レイトルズへと戻ろうとした。
「ま、待ってくれ!」
「俺達は」
紅がそっと男達に告げる。
「大丈夫!ちゃんと自警団に場所を伝えておくから」
「お、お嬢ちゃん!」
「なあ、そっちの青い髪のお嬢ちゃん!」
「…誰がお嬢ちゃんだって…?」
レッチェは半眼で男達に目を向けた。
「ひぃ!怖い顔!だがその顔もまた…」
「…うえ」
「なあ、お嬢ちゃん、いやお坊ちゃん!悪い子とは言わねえ!あの女に近づくな!」
「そうだ!あの女は恐ろしい…!」
しつこく引き下がってくる男達。
「…ふうん……」
レッチェは少し面白そうに。狼狽している男達をよそにすたすたと、ティレイサが待つ馬車へと戻っていく。その後ろを紅が追った。レイトルズに乗り込んだ紅は、運転席で待っていたオリビアに、お待たせと合図を送った。オリビアは後ろの馬車をミラーで確認した後、レイトルズを発車させた。馬車へと戻ったレッチェ。
「大丈夫でしたの?」
「何も。問題ないよ」
ティレイサを安心させるべくか、はたまた本当に何でもないことなのか。レッチェはそう言って、すっと席に座った。
「それでは行きますよ」
「ええ!」
テオルが馬を再び走らせ、馬車は動き出した。戻って来たレッチェを、レディアはふと見た。レッチェがまだ何を考えてるか読み取ることは難しかった。2人の目の前に座っているティレイサはレッチェを見て。気にはなるものの、これから会うだろうディレーの事をまた考え始めていた。
(どんな方なのかしら…。しっかりしないと…)
父が言ってくれた事を思い出しながら、ティレイサは過ぎゆく景色を見つめた。レイトルズの中では、紅がオリビアに前のめりで話していた。
「ディレー氏の屋敷に、なんだか不審な気配あり!」
「まったく…」
「魔人の力って、言ってたねおじさん達!ねえ、オリビア。魔人の力って…」
紅の問いかけに、オリビアは答えてやる。
「この6つの惑星には、それぞれの星を統べる力がある。共通する力もあるが、このレガント星で良く知られているのは法力の力だ」
「うん。レディアが法力師だもんね」
紅は、レディアがえいっと法力を使っている姿を思い浮かべた。オリビアは紅の返事を待って話を続けた。
「法力は人を癒す。レガント星の力を持って傷ついた者を。それと対をなすのが、魔人の力だ。魔人の力は、その名の通り魔人を操る力もあるが、レガントの星の、人らしくない力を指す言葉とも言える」
「うーん。ボクには分かんないなあ」
「勉強しに来てるんだろう?」
「えへへ」
(何故そこで照れる)
オリビアはまだ同じチームメンバーになった紅を持て余している様だ。紅は後部座席から見えるオリビアを嬉しそうに観ている。
「要は魔人の力って言うのは、人並外れたすっごーい力ってことだよね!強そう―!」
「ふっ」
オリビアは、のんきで良いな、と思うに留めた。
レイトルズを走らせて、しばらく。ディレーの屋敷が見えてきた。強固そうな門の前に車を停めた。程なくティレイサを乗せた馬車も到達する。オリビアは門番に話した。
「我々は、ディレー氏の書状よりティレイサ姫をお連れした」
門番も心得ている様で、ディレーに報告と共に、彼らを屋敷内へと迎え入れた。
『プリンセス・ティレイサ10』
ギルドSECHSの5人とティレイサは、ディレーの屋敷の客間へと通されていた。調度品は美しく、なかなかいい趣味をしている。ティレイサは、3人がけの椅子に腰かけていた。隣にはレディアが。他の3人がけの椅子にオリビアとテオル。もう1つの椅子に紅。扉の近くの壁に背をもたれかけさせ、レッチェがいる。ティレイサは、すこしソワソワして視線を部屋中へと巡らせた。
「大丈夫?」
レディアが心配して声をかけた。
「はい……少し緊張しています」
ティレイサはそのままを答えた。
「ディレーさん…どんな方なのかな…」
「そうね…」
「ディレー氏は、この辺りの商売を取り仕切っている。中々のやり手だそうだ。」
オリビアは続けた。
「姫のことも、あながち知らないわけではないようだ」
「!」
ティレイサははっとした。
「それは…本当ですか?」
「ちょっと、それは初耳よ」
レディアが問う。
「姫、その瞳で見て来るといい」
オリビアはレディアをなだめつつ、ティレイサに扉の方へと促した。つられてティレイサは扉へと目を向ける。その時、丁度、屋敷の者がやってきた。執事のようだ。
「お待たせいたしました。ティレイサ姫、どうぞこちらへ」
ティレイサは、少なからず動揺している。だが、
「わかりました」
席を立った。
「お連れの方はここでお待ち下さい」
執事はそう言い放つ。
「ティレイサだけってことはないだろ?俺も行くよ」
「レッチェ」
「いえ、こちらで…」
「なあ、そんな事言って、ティレイサを怪しげな男の所に連れて行って、悪いことしようとしてるんじゃないの?」
「まさか!ディレー様はそのようなお方ではありません!」
「そうかな?こんな所で、屋敷の者達と男”1人“で暮らしてるっていうんだろ?怪しいなあ」
「ホントホント!怪しいなー」
紅も続いた。
「それにティレイサ姫をお付きの者もなしで行かせるわけにはいかないわね」
レディアも続く。
「わ、わかりました。でしたら1人、お付きの者もご同行ください。」
レッチェと紅、レディアは目を見合わせた。テオルはニコニコと笑っている。オリビアは動く気配も無い。目配せの結果。
「俺が行くよ」
レッチェが名乗り出る。
「ではこちらへ。」
ティレイサは頷いた。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい、ティレイサ姫。」
「姫に何かしたらボクが承知しないよ!」
姫は執事の後をついて客間の外へでた。そのすぐ後をレッチェが同行する。客間に残ったSECHSのメンバーは静かにその場で待つことにした。オリビアはそっと目を閉じた。