王からティレイサの事を任された、SECHS( ゼックス)はティレイサの支度を待って、城を出発する。向かうのは草原の先の雑木林の方、その少し先のうっそうとした森を抜けた先にある、ディレーの屋敷だ。向かう手段は、車が先導し、その後から姫の馬車が。車は大人が4人乗れる少しレトロなスポーツカーだった。その車は、SECHSが今居る星を含めた、6惑星の内の1つから、流れてきた機械工学を汲んで作られた。そのレイトルズと呼ばれる車をオリビアが運転し、後部座席に紅が広々と座っている。後ろに続く馬車の御者をテオルが。白い2頭の馬をそつなく手なずけている。馬車はコロンとして、白色の外観に後部にティレイサが座り、ティレイサと向かい合わせに、レッチェとレディアが座っている。レイトルズを走らせているオリビアは、自分が馬車を守れる距離をとり、端から見れば、悠々と走っているように見えた。紅とレッチェが、ティレイサを狙った烏瑪(からすめ)と相対した雑木林は難なく取り過ぎれそうだった。レイトルズの後部座席に座っている紅は少し緊張感が無いようにも思えた。ふんふんと、鼻歌を歌いだしそうだ。
「ねえ、オリビア」
「ん?」
「ディレー氏ってどんな人かな?」
「さあな」
そっけない返事が返ってきて、紅は少しむくれそうになった。ミラー越しに見える紅を見て、オリビアは少し話をしてやる。
「そうだな。ディレーは、もとは商人だ。いや今もだな。別に悪い噂は聞いたりはしない。かなりの手腕で富を増やしたそうだ」
「ふんふん。ってオリビア!そうじゃなくって…。ボクが聞きたいのは、ディレー氏がティレイサの事をどう思ってるかな?ってこと!」
「…ああ」
そっちの話かと、オリビア。紅もその手の話しが好きなのかとも。
「それこそ、ディレー本人に会ってみることだな。この誘いに意味があるのなら」
「うーん…そもそもディレー氏はティレイサに会った事あるのかな?ティレイサは凄く可愛いお姫さまだけど。どうなんだろう」
「ふ……」
「え!何?何か知ってるの?オリビア!そういえば、王様とお話してから、王様も何だかすっかり変っちゃったし」
なーにー?と後部座席でばたばたしだした紅は、結局答えてくれないオリビアに、むーっと膨れた。そんな紅をよそに、オリビアはサイドミラー越しに後続の白い馬車を見た。テオルが意気揚々と馬達を走らせている。その馬車の中で、ティレイサが少し神妙な面持ちだった。
「はあ」
「大丈夫?ティレイサ」
「はい…でも少し、緊張してしまって」
いけませんね…と、付け加えた。レディアはティレイサの横に座っている。ティレイサの前にレッチェが。
「深呼吸するといい」
レッチェがティレイサに言うと、深呼吸ねと深く息を吸って長く息を吐いた。それを数回繰り返した。
「ティレイサ。部屋で言ったことなんだけど」
「嫌われてしまう作戦ですね」
ティレイサは少し、落ち着いたようだ。
「私…ディレーさんの事、何も知りません。富豪とだけ…。でも、今回直接お会いすることで、私自身、見極めようと思います」
「ええ、その方がいいわ」
レディアは少し苦笑した。ティレイサはくすっと笑った。
「レディアさんとオリビアさんはどうなんですか?」
「え、私とオリビア?」
「はい!良かったら聞かせてください」
「そうねえ…。最初は私の一目惚れからだったな」
「そうなんですか!?一目惚れかあ…。」
「そう。私が12歳の頃、オリビアと…」
「きゃあ」
きゃっきゃと楽しそうに恋愛話をしているレディアとティレイサを、レッチェは特に興味なさげに見ていた。ふっと窓の外に目をやると、うっそうとした森の中に馬車が入っていく。まだディレー氏の屋敷まで時間が掛かりそうだと、時間を計算した。少しレイ(6惑星の熱源体)が傾き始めているのではと思える時間。あくびこそしなかったが、少し退屈でもあった。そんな折、前を走るレイトルズが停車した。
前を走っていたレイトルズは、そのさらに前方にいる男達を見て停車していた。
「紅、ロープはあるか?」
「ロープ?待って」
紅はごそごそと自分の足元に置いてあった道具入れをごそごそと調べた。
「あ、あるよ!」
「そうか。それを持って待っていてくれ」
「はーい!」
そう言い残しオリビアは、レイトルズを降りた。目の前には風体も悪く、柄も悪そうな男達が20人ほど道を塞いでいる。どの顔もオリビアを見てニヤニヤと笑っていた。オリビアはこともなげに言った。
「ここを通りたいんだが、どいてくれないか?」
「へっへっへ」
男達はオリビアを見て、たった1人と侮っているようだった。
「ここを通りたきゃ通ってもいいぜ。ただし姫を置いていってもらおうか」
「それは出来ない相談だ」
オリビアははっきりとした口調で要求を払いのけた。
「なら、ここを通すわけにはいかねえなあ」
「そうか」
「あん?兄ちゃんもしかして1人で俺たちとやるつもりか?」
「ぎゃっはっは!こいつはいい!」
男達は下卑た笑いを見せていたが、オリビアは特に意に介さず、右足でトントンと軽く地面を叩いた。男達は気づいていない、その直後オリビアの瞳がキラリと前を注視したことを。まだ笑っている男達に向かって、オリビアはすっと飛び掛かった。強力な一撃が足から放たれた。その攻撃で前に居た8人ほどは軽く吹っ飛んでいった。そのまま意識を失った。一瞬で笑いが止まった男達だったが、オリビアは手を緩めない。近くにいた男の胴を右足で蹴り上げ、右足が空に浮いている状態でそのまま、器用に左足を回転させ、周りの男達に回し蹴りを食らわせる。さらに男達の数が減り、ようやくオリビアに襲い掛かろうと向かってくるが、オリビアはその男達の前から身を少しかがませ、膝を次々足払いした。痛みと共にバランスを崩した男達は、もんどりうって地面に転がった。残った2人の男は目前で起こった事が理解できず、判断が遅れた。が、動くことももはや出来なかった。オリビアはその2人の男達に近づき、軽めに蹴りを入れた。男達はバタッと倒れた。目の前の男達を全て倒したオリビアは森の中に注目した。感覚を済ませ、まだ潜んでいるものがいないか窺った。しかしこれ以上は居なかった。レイトルズに乗っている紅に合図を送った。紅は扉を開け、タタッとロープを笑顔で持ってきた。
「みんな縛ったらいい?」
「そうだな…。面倒だがそうするか…」
オリビアは後続の馬車にも合図を送り、馬車からレッチェが下りてきた。
「はい!レッチェ、ロープだよ」
紅がレッチェにロープを渡した。レッチェも仕方なしに手伝うことにした。男達を木に縛り付けていく。
「こいつら…」
「どうしたの?」
「ティレイサを追ってた時に、襲ってきた奴らがいる」
「ホント!?」
紅は誰?とレッチェの側へと近寄って、その襲ってきたという男達の顔をまじまじと見た。
「この連中は、姫を置いていけといっていた。ディレーの屋敷に行く途中に出くわすとは。ここを張っていたんだろう」
「お話、聞いた方がよさそうだね」
紅は男達から視線をそらさずに言った。