赤い炎が辺り一面を、カルテアの星を焼き尽くしている。その炎の合間を縫って、一人の少年が走っていた。轟轟と音を立てて崩れる建物。人の悲鳴はもうしない。少年の脚はその中心地へと向かっている。金の髪が火に照らされ、燃えるように赤く見える。光を失いかけた心は、今こそ立ち上がろうとしている。だが。幼い彼に、まだ力は無く。それでもただ一心にひた走る。彼のようやく知りえた父の元へ。父―カルテアの君は、今まさに命を失おうとしている。少年の左耳の青いピアスが照りつける炎を反射する。少年はようやく王都の、城の門まで来た。そこまで来て少年は初めて身動ぎした。中からの異様な意識。誰かがこの奥に居る。恐ろしいまでの力を持った者がいる。今まで感じたことのない恐怖が少年の全身を突き刺した。それでも。この奥に父がいる。少年は戦慄しつつも、先へと進んだ。彼はどうしても会いたかった。会ってどうしたいのかも分からない。ただ会いたかった。オリビアはただ会いたかったのだ。
6惑星の1つ、レガント星。その熱帯地域に位置する海辺の街サイフォンの近く。レガント星の人々を魔物から守る事を主としたギルド機関ファナイリファビリティー。そこに属する1つのギルドSECHS(ゼックス)ハウスがそこにはあった。赤い屋根の少しばかり大きい家だ。その玄関を今、意気揚々と入って来た美少年がいた。
「こんにちは!」
「涼ちゃん!」
黒髪の美少年、風見涼は、家にいた青く長い髪を太ももまで伸ばした、美少女と見間違うかのような少年に声をかけられた。涼は黄色いパーカーに、グリーンのカーゴパンツを穿いている。レッチェの方は黒いタンクトップに赤いジャケットを腕にかけている。黒い皮のボトムスにこれまた黒いチャンキーヒールのブーツを履いていた。
「早かったね」
「うん!学校終わって急いできたから」
涼は今、青い星の中学1年生の13歳だ。成績優秀ながら、両親が亡くなった最近になって辞めてしまっていたが、3歳の頃から剣術を習っていた。学校が終わればすぐにこのレガント星のSECHSハウスへとやって来ている。涼の部屋もちゃんと用意されている。使っていなかった2階のレッチェの隣の部屋だが、今はベッドと机に椅子。そして小さいがワードローブも用意されている。
「今日はどうだったの?」
「うん、ばっちりだよ!」
「流石」
レッチェは涼より1つ年上の14歳。今日の涼の学校での事を聞きながら、涼とリビングのソファへと移動した。
「涼ちゃん!来たんだね!」
「紅、今日は何するの?」
「そうだなー」
紅と呼ばれたSECHSの一応リーダー。チーム内では1番年下の12歳。黒髪を腰まで伸ばした少女は、胸にピンクのチューブトップにこげ茶のショートパンツ姿だ。涼に素早く今日の仕事の話をしようとしていたが、リビングから外に続くテラスに人影が現れてそちらに注意を向ける。
「涼、来ていたのか」
「こんにちは!オリビア」
金髪碧眼の青年はリビングへと通じるテラスへとやって来て、腰を掛けた。ギルド内では年長組となる18歳の彼は、今まで修行していたのだろう、少し汗ばんでいる。黒いタートルネックのトップスと、ジーパンが少しほこりっぽくなっていた。
「今日もテオルに剣術を習うといい」
「は、はい!」
「ええ?俺は涼と街のパトロールに行きたいんだけどな」
「うーん。でも確かに、涼ちゃんはちゃんと戦えるようにならないといけないもんね」
紅はオリビアに同意する。レッチェはオリビアの涼への助言が気に入らない。だが、この前サナストロス、通称サナを1人で倒したとは言え、まだまだ沢山の魔物を相手にするには経験が絶対的に足りないだろう。レッチェにとってはつまらない事だが、仕方がない。
「じゃあ俺も一緒に修行しようかなー」
「レッチェはボクとパトロール行こ~」
「ええー?」
2人のやり取りを見やり、オリビアは家へと上がった。
「あら?今日はおしまい?」
奥から栗色のふわふわウェーブした髪の、オリビアと同い年の妻であるレディアがティーセットを持ってリビングへとやってくる。モスグリーンのワンピースの裾がひらりと揺れる。
「シャワー浴びてくる」
「そう。じゃあ、バスタオル用意するわね」
レディアはリビングのローテーブルにティーセットを置き。
「かまわない。それより…」
オリビアは3人に目をやる。まだ修行をするのかパトロールをするのかと騒いでいる、オリビアにとってはまだまだ幼く見える。彼らに気をかけてやって欲しいと、レディアには伝わった。レディアは優しく微笑み返し、3人に声をかける。
「ちょっとー!いつまで騒いでるの!まずはお茶にしましょ。それから涼はテオルと剣術の稽古。レッチェは紅とパトロールね」
「ち」
「やったあ!」
「はい」
三者三葉の反応を見せるが、納得したようだった。
「いいわよね?テオル」
「そうですねえ」
テオルはいつからそこにいたのか分からない。紫がかった銀髪を膝まで伸ばしたテオルはリビングのソファにゆったりと座り、さっそくお茶を飲んでいる。年齢はオリビアと同じだと言っているが、それは自称で本当かは分からない。白一色で統一された衣類はさらに―これはいつものことでこの地域で暑くないのだろかと思う―白く長いジャケットを纏っている。
「どう?」
「ええ。レディアにしては美味しく淹れられていますね」
「ちょっと!お茶のことじゃないわよ!それに私にしたらってどういう意味よ!」
「ああ、そうでしたか。涼、後で手ほどきしましょう」
「はい!」
「まったく」
テオルの言葉に、涼は嬉しそうに返事をした。テオルの方は真剣なのかわざとやっているのか分からない。レディアにしてみれば、テオルは会った時からオリビア以外にはこんな感じだったので、時にヒートアップするものの、今は放っておくことにした。
「仕方ねーな。じゃあ、これ飲んだら、ちょっと出かけるか」
「ふふふん。今日はボクの方が先に魔物を見つけるからね!」
「何言ってんだ。魔物は見つかんない方がいいの」
「確かに、そうね」
レディアは言いながらお茶を淹れる。オリビアの事を考えながら。
To be continued