「ん、ううん……」
プリンセス・ティレイサは目を覚ました。
広い室内。クローゼットや、ドレッサー、キャビネットなどは全てオフホワイトでまとめられている。
キャビネットの上には、少しくたびれたうさぎのぬいぐるみが、宝石箱と一緒に並んでいた。
部屋の中央には、こちらもオフホワイトの天蓋つきのベッドが置かれている。
ティレイサはそのベッドに自分が横たわっていることに気づくのに、時間はかからなかった。
(ここは…私の寝室だわ…)
ウェーブがかったブロンドを肩より少し伸ばし、ピンクの肩開きデザインのワンピースを着ている。
ミルクティー色の瞳をパチパチさせ、どうやってここまで戻ってきたのか考えるが、思い出せない。
「気がついた?」
すっと、耳に馴染む。まるで、気品のある弦楽器のように、その声は貴重なように思えた。
しかし、自分の寝室に聞いたこともない声がし、慌ててティレイサは身を起こす。
「誰!?」
声の主を探すと、部屋の扉に背をもたれかけ、こちらを見つめる、
青い髪を伸ばした少女のような男の子が立っていた。
「あ、あなた…誰よ!」
「俺?」
男の子だと、思ったのはその声を聞いたからだが、間違ってはいないようだ。
男の子は少し間を置いて話し出した。
「俺の名前はレッチェ。依頼を受けて君の護衛をすることになったんだ」
最も、護衛は専門じゃないけど。と付け加えた。
ティレイサは訳がわからず聞き返す。
「い、依頼?護衛?一体何のことをいってるの?」
そう。とレッチェが言葉少なに頷いたのを見て、はっともしやと思うことが出てきた。
「もしかして、お父様が…?」
レッチェは今度は何も返事をしてくれない。
それを同意と取ったのか、ティレイサはがばっと身を翻し、部屋を飛び出した。
足早に、自分の気がかりを確かめるべく目的の部屋へと向かう。
一緒に、ティレイサのベッドの下にいた、白猫ミミもレッチェと一緒に後を追う。
「どうしてついてくるの?」
苛立ち紛れに、レッチェに突っかかる。
「護衛だからね。片時も傍を離れない」
「なっ!」
思いもよらないことを言われ、少し振り返ってレッチェの顔を見るも、
レッチェは眉1つ動かさずに涼しい顔をしていた。
(何よ!)
ティレイサは焦っている自分と対照的に思えて、さらに苛立った。
目的の部屋の前に辿り着いたティレイサは、その城の観音開きの広間の扉を力任せに押した。
「お父様!どういうこと!?」
広間に目についたのは、自分の父、そして見知らぬ顔が4つあった。
「お、お客様なの?」
「ティレイサ、こっちに来なさい」
父は広間の椅子に座り、その見慣れぬ客人たちと談笑しているようだった。
ティレイサは父に呼ばれ、父の側まで来た。
「どなたですの?」
「初めまして!ボク達ファナイリファビリティーのギルドSECHS(ゼックス)です!
今日から結婚式まで、ティレイサ姫の護衛を務めます!よろしくね!」
元気よく挨拶してくれた少女は毛髪の多い黒髪を腰まで伸ばし、
白いトップスの下にピンクのチューブトップを着ている。パンツはこげ茶色で黒いスニーカーを履いていた。
「あ、ボクの名前は紅(クレナイ)。他のメンバーも紹介…」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
紅のペースに巻き込まれそうになり、ティレイサは慌てて話を止めた。
「ファナイリファビリティーってあの?」
紅はにこにこして頷いた。
ファナイリファビリティーとは6惑星の1つ、このレガント星で、
人々の暮らしの助けになるために…猫探しからモンスター退治まで、
ありとあらゆる依頼を受け、その内容を得意とするギルドに仕事を振り分け、
レガント星の平和を維持している機関の1つだ。
ファナイリファビリティーのギルドはレガント星中に広がりつつあるが、
中でも優秀なのがこの結成1ヵ月未満というにもかかわらず、
優秀な成果を上げているこのSECHSが今の注目株だった。
「そのSECHSが、一体何なの?結婚って、お父様!」
「落ち着きなさい、ティレイサ」
「落ち着いてなんていられないわ!」
ティレイサは、興奮気味な態度をあらわにした。
「お姫様、聞いて」
「な、何よ!」
「ボク達は、キミの安全を守る為に来たんだ。キミにもボク達のことを知っておいて欲しい」
紅はティレイサよりもずっと幼いだろうが、しっかりとティレイサの目を見て語り掛けた。
ティレイサも聞く気になったようだ。
「分かったわ…」
「ありがと!お姫様!」
紅は満面の笑みで、メンバーの紹介を始めることにした。
「椅子に座ってるブロンドの彼がオリビア。その彼女のレディア。
そして、2刀を背をっているのがテオルだよ!みんなお姫様に協力するからね!」
紅がメンバー紹介を終えたころ、落ち着きを取り戻していたティレイサ。
「そう…。でもお父様、私結婚の事は…」
「ティレイサ、その話は済んだはずだ」
「…はい」
父に言われ、今までの威勢が嘘のように大人しくなったティレイサはそれ以上は何も言わなかった。