SECHS1長篇小説第6話『プリンセス・ティレイサ 6』。

投稿者: | 2021年1月5日

 城の広間にて。

この城の王――ティレイサの父はオリビアと共に居た。

深いゆったりとした椅子。中央の上座に王が。

オリビアは王の右の椅子に。

オリビアは王の話を聞いていた。

王はティレイサの婚姻の話を。

「悩んでいられるなら」

「しかし…」

王は娘の事を想っている。しかし、城の事も思っていた。

「私は……」

「………」

苦悩する王に、オリビアは静かに告げた。

「王。あなたが決めるんだ。この城を守りたいのなら」

「………うむ……」

静かだが、切り離すような冷たさではない。

「しかし、あなたの娘はただ1人。ティレイサだけだ」

「………」

広間の入口にテオルの姿が見える。

オリビアと王が話をしているのを取り、そっと控えていた。

その姿をちらりとオリビアは視線に捉える。

「決めるのはあなただ」

(分かり切った事だ)

苦悩から苦渋に変わりつつある王を見て、オリビア。

少し言葉を柔らかに、するわけではないが。

「だが、我々はあなたの手助けになる為に、ここに居るんだ。

王よ」

王は初めて顔を上げた。

その王の顔をしっかりと見て、オリビアは席を立った。

広間の入口まで戻り、テオルの所へ。

「マスター」

「どうした?」

「姫の事で少し」

オリビアは先を促すように。テオルは少し含んでこう答えた。

「レディアがいつもの様に、何か思いついたようですよ」

「そうか」

それだけでどんな様か分かった様だ。

「俺は少し王の側にいる。紅とレッチェが戻ったら、…いや。戻ってきたようだな」

「そのようです」

ティレイサが襲われたテラスへと、そのまま紅とレッチェは戻ってきたようだ。

紅の騒がしさと、レッチェ独特の空気感が、

離れたオリビアとテオルの所へも届いたようだ。

「…任せる」

「分かりました、マスター」

オリビアは王の所へと踵を返した。

その姿を一瞬見守り、テオルはテラスの方へと歩き出した。

「あ、テオル!」

やっほー!と。

テオルを見つけて、紅は声を上げた。

レッチェはテラスの縁に背中を預けて、

烏瑪(からすめ)に着けている発信機を見ていた。

「どうでした?」

「うん、あの矢を放ったのは烏瑪っていう変なおじさんだったよ」

「烏瑪?さて…」

テオルも知らないのだろうか、聞きなれない名だとしている。

紅とテオルをよそに、レッチェは手の中の、小さく光り輝くモノを見ていた。

「…今、行先を調べてるんだけど」

レッチェは光り輝くモノ――発信機をじっと見ていた。

「…止った」

「どこ?」

「どこです?」

レッチェはテラスの床に、自身が持っていた地図を広げた。

紅とテオルも広げられた地図を覗き込んだ。

地図の上をレッチェは目で追い、辿っていった。

そして、ある場所を指さした。

「ここって確か……」

「ええ」

「ティレイサの結婚相手の富豪、ディレー氏の屋敷の場所だな」

「どういう事だろう…?」

3人は顔を見合わせた。

「とにかく、今はまず姫の所へ戻るか」

「そうしましょう」

「そうだね!きっと待ってるよ!」

警戒しつつ、ティレイサの待つ部屋へと向かった。

「ほんっと役に立たないねえ…」

「申し訳ありません」

ここは富豪ディレーの屋敷。

その1室。アンティークな家具に囲まれた奥が小上がりになっており、

1つ椅子が配されている。

その椅子に女が座っていた。

金髪をカールボブにしている。袖にレースがあしらわれている、

セミフォーマルの黒のドレスを身にまとい、妖艶に足を組んでいる。

その女の目前に、烏瑪は頭を垂れていた。

「少し邪魔が入りまして」

「ふん」

女は鼻を鳴らして、手を口元に少し持っていった。

「そんな言い訳が立つと思うのかい?

あんな小娘1人始末出来ないなんてね…」

女は心底嫌そうに、眉間に皺を寄せる。

「ディレーは、あの小娘に屋敷に来るように使いを出したようだよ」

(……ならば奴らも来るかもしれないということか…)

「まったく私というものがありながら…」

(それは貴方が仕組んだんだろう……。

ほんの少し持ち合わせた魔人力を使って。

…いや、今はどうでもいい……)

「分かっているね。あの小娘が来たら今度こそ…!」

烏瑪はようやく頭を、と同時に身体も起こした。

「お任せください」

烏瑪はさっと身をひるがえし部屋を後にした。