SECHS1長篇小説第12話『プリンセス・ティレイサ 12』。

投稿者: | 2021年1月5日

 ディレーの屋敷の客間にて、オリビアは紅とレディア、そしてテオルにティレイサとディレーの事を話した。

「なるほどー」

「じゃあディレーさんは、その時ティレイサに一目惚れしていたという事ね」

「どこかの誰かと同じなわけですね」

棘のあるテオルの言い方は構わず、レディアは続ける。

「じゃあ、この結婚って、最初から仕組まれていたのね…」

「ええ!?そうなの?」

「だって、そうじゃない?これで王様の思惑通りね。姫は理想の男性と結婚し、城も安泰だわ」

「おや、ディレーは理想の男性なのですか?」

「姫は恋をしたいと言っていたわ。なら初恋の相手ならとっても良いと思うわ。ね、オリビア」

テオルは少しばかりおかしそうに。

「ディレー氏は押しかけてこられたわけではないですし、本望かもしれませんね」

「誰の事を言ってるのかしら?」

「よせ」

オリビアは今にも始まりそうなくだらない喧嘩を止め、話を進める。

「王は、最終的には姫の判断に任せるそうだ。後は姫の心次第だ」

「ディレーもやり手だとは聞いていたけど、王の方も意外と食わせ物だったようですね」

にっこり笑うテオルを一べつし、オリビアは扉の方を注視する。

「姫の決断の前にすることがありそうだ」

客間の扉がスッと開かれる。一同はそちらに視線を向けた。

「初めまして、SECHS(ゼックス)の皆さん」

「あ!おじさん!」

「おじさんではありませんよ。私の名は烏瑪(からすめ)。皆さんにお会いできて光栄です」

烏瑪はシルクハットを取り挨拶をする。

「あなたね!姫を狙ったのは!」

「はい。我が主の命で仕方なく。私も心が痛いのですよ。あのような何の力もないお嬢さんを狙うのは。しかしあなた方は別だ」

烏瑪は流暢にしゃべりながら、シルクハットを胸の前でとめる。

「屋敷の中で戦うの!?」

「ええ、ここは私の屋敷ではありませんから」

「身勝手な人ね!」

レディアの言葉も聞き終わらずに、烏瑪は事を仕掛ける。客間の壁から土の魔獣グレートアシェを1体出現させた。前に紅と戦った時は2.5メートルほどあった身長が今度は横に広く形を変え、襲い掛かってくる。オリビアは躊躇わずに、頭をパンっと蹴り上げる。グレートアシェはもろくも、頭を取られるが、再び形を成して頭を作った。

「土人形が」

「甘く見ないでもらいたい。今度は前の様にはいかないよ」

グレートアシェは、オリビアの足を掴み、己の土を硬化させそのまま破壊しようとする。そのグレートアシェの手をテオルはスパっと一刀した。

その取れた手がまた、大きく変形していく。

「大地の魔獣だ。この地ある限り、どこへでも存命する」

「これはこれは」

テオルは2刀の内の1刀を素早く振るった。みじん切りにされるグレートアシェは、その数だけを身体にして復活しようとしたが。

「灯を」

オリビアが、少しばかりの輝きを放ち、グレートアシェの身体にだけ炎が燃え移る。

「何!?」

烏瑪が驚く間も、その炎が収束するに従って、グレートアシェの身体は炎に吸収されやがて塵となって消えてしまった。

「バカな…」

「まったく」

オリビアは太ももに付いた砂ぼこりを払いつつ、烏瑪に詰め寄る。

「こんな所で火遊びさせないでくれ」

「き、貴様…」

「お前の主はどこにいる?」

烏瑪は問われていることには答えず、自らの身を案じるよりも先に言葉が出る。

「今のは魔法。威力は小さいが、貴様…!カルテアの…!あの滅びの星の…!」

オリビアは烏瑪に平手打ちを食らわせ、正気に戻させる。

「ひっ!」

「もう一度聞く。お前の主はどこにいる?」

「い、今!」

「?」

「今すぐとは言わない!だが、貴様たちを必ず倒すお方を見つけて見せる!」

「マスター」

テオルはオリビアに烏瑪を離させた。

「もう放っておきましょう。それより、先ほど魔人力を感じました。この屋敷にこの男の主がいるのでしょう。レッチェがついているとはいえ、姫だけではなく、今はディレーも守らねばなりません」

「…」

オリビアは烏瑪を離してやる。

「おじさん、またやられちゃったね」

紅は烏瑪に優しくしてやるが、烏瑪は余計に気が滅入った。

「ふ、ふふ」

「な、何?」

烏瑪の不敵な笑いに、身じろぎするレディア。

「いいでしょう。今回は私の負けにしておきましょう。主と言っても借り物です…。知りたければ教えましょう!」

「いや、いい」

「そんな!」

あっさりとオリビアに断られ、烏瑪はなすすべもなくなってしまった。そこへ、ティレイサ姫と一緒にレッチェが戻って来た。

「あれ、何してんの?おじさん」

「くっ…!またあの時の坊ちゃんか!」

「姫」

「は、はい!」

オリビアはティレイサに告げる。

「レディアと紅、そしてテオルと一緒に表の馬車で待っていてくれ」

「ええ!?クも残りたい!」

「紅、わがまま言わないの」

「ぶー!」

「私が先導しましょう。マスター、ご無事で」

「ああ」

言うなり、テオルは先に行ってしまった。ティレイサも促されるが、その前にレッチェに向き直る。

「レッチェ」

「ティレイサ、後は任せて。心配いらない」

「ご武運を」

ティレイサはレッチェの手を取り、ぎゅっと握る。

「さ、行きましょう。ティレイサ」

「はい!」

ティレイサはレッチェの手を離し、時折振り返りながら表への道を進んでいく。

「では、私もそろそろ…」

「……」

烏瑪も、ついでに部屋を出ていった。

「ねえ、レディア」

「なあに?」

「さっきの、オリビアの。カルテアのって、おじさん言ってたけど。あれって…?」

「紅」

「うん?」

「勉強しに来てるんでしょう?」

レディアは少し困ったように。でもすぐ戻り、にっこりと紅に言ってやる。

「あー!レディアも、オリビアと同じ事言う!」

「ふふ。さ、行きましょう!」

そうして、オリビアとレッチェが残された。

「分かっていると思うがここは人の屋敷だ」

「それが?」

「大人しく暴れることだ」

「…ふん」

素直には従わないレッチェだが、情報だけは伝える。

「ディレーには、ヴァレッタという金髪をカールボブにした女の人がいる。魔人力の持ち主。その人が、ディレーを操ってる」

「そうか…」

オリビアは屋敷の気配に気を配った。

「まだ使用人たちもいる」

「分かってるよ」

レッチェは手を曲げ伸ばす。2人は客間を後にして、真っすぐにディレーとヴァレッタの方へと向かった。