ディレーの屋敷の客間にて、オリビアは紅とレディア、そしてテオルにティレイサとディレーの事を話した。
「なるほどー」
「じゃあディレーさんは、その時ティレイサに一目惚れしていたという事ね」
「どこかの誰かと同じなわけですね」
棘のあるテオルの言い方は構わず、レディアは続ける。
「じゃあ、この結婚って、最初から仕組まれていたのね…」
「ええ!?そうなの?」
「だって、そうじゃない?これで王様の思惑通りね。姫は理想の男性と結婚し、城も安泰だわ」
「おや、ディレーは理想の男性なのですか?」
「姫は恋をしたいと言っていたわ。なら初恋の相手ならとっても良いと思うわ。ね、オリビア」
テオルは少しばかりおかしそうに。
「ディレー氏は押しかけてこられたわけではないですし、本望かもしれませんね」
「誰の事を言ってるのかしら?」
「よせ」
オリビアは今にも始まりそうなくだらない喧嘩を止め、話を進める。
「王は、最終的には姫の判断に任せるそうだ。後は姫の心次第だ」
「ディレーもやり手だとは聞いていたけど、王の方も意外と食わせ物だったようですね」
にっこり笑うテオルを一べつし、オリビアは扉の方を注視する。
「姫の決断の前にすることがありそうだ」
客間の扉がスッと開かれる。一同はそちらに視線を向けた。
「初めまして、SECHS(ゼックス)の皆さん」
「あ!おじさん!」
「おじさんではありませんよ。私の名は烏瑪(からすめ)。皆さんにお会いできて光栄です」
烏瑪はシルクハットを取り挨拶をする。
「あなたね!姫を狙ったのは!」
「はい。我が主の命で仕方なく。私も心が痛いのですよ。あのような何の力もないお嬢さんを狙うのは。しかしあなた方は別だ」
烏瑪は流暢にしゃべりながら、シルクハットを胸の前でとめる。
「屋敷の中で戦うの!?」
「ええ、ここは私の屋敷ではありませんから」
「身勝手な人ね!」
レディアの言葉も聞き終わらずに、烏瑪は事を仕掛ける。客間の壁から土の魔獣グレートアシェを1体出現させた。前に紅と戦った時は2.5メートルほどあった身長が今度は横に広く形を変え、襲い掛かってくる。オリビアは躊躇わずに、頭をパンっと蹴り上げる。グレートアシェはもろくも、頭を取られるが、再び形を成して頭を作った。
「土人形が」
「甘く見ないでもらいたい。今度は前の様にはいかないよ」
グレートアシェは、オリビアの足を掴み、己の土を硬化させそのまま破壊しようとする。そのグレートアシェの手をテオルはスパっと一刀した。
その取れた手がまた、大きく変形していく。
「大地の魔獣だ。この地ある限り、どこへでも存命する」
「これはこれは」
テオルは2刀の内の1刀を素早く振るった。みじん切りにされるグレートアシェは、その数だけを身体にして復活しようとしたが。
「灯を」
オリビアが、少しばかりの輝きを放ち、グレートアシェの身体にだけ炎が燃え移る。
「何!?」
烏瑪が驚く間も、その炎が収束するに従って、グレートアシェの身体は炎に吸収されやがて塵となって消えてしまった。
「バカな…」
「まったく」
オリビアは太ももに付いた砂ぼこりを払いつつ、烏瑪に詰め寄る。
「こんな所で火遊びさせないでくれ」
「き、貴様…」
「お前の主はどこにいる?」
烏瑪は問われていることには答えず、自らの身を案じるよりも先に言葉が出る。
「今のは魔法。威力は小さいが、貴様…!カルテアの…!あの滅びの星の…!」
オリビアは烏瑪に平手打ちを食らわせ、正気に戻させる。
「ひっ!」
「もう一度聞く。お前の主はどこにいる?」
「い、今!」
「?」
「今すぐとは言わない!だが、貴様たちを必ず倒すお方を見つけて見せる!」
「マスター」
テオルはオリビアに烏瑪を離させた。
「もう放っておきましょう。それより、先ほど魔人力を感じました。この屋敷にこの男の主がいるのでしょう。レッチェがついているとはいえ、姫だけではなく、今はディレーも守らねばなりません」
「…」
オリビアは烏瑪を離してやる。
「おじさん、またやられちゃったね」
紅は烏瑪に優しくしてやるが、烏瑪は余計に気が滅入った。
「ふ、ふふ」
「な、何?」
烏瑪の不敵な笑いに、身じろぎするレディア。
「いいでしょう。今回は私の負けにしておきましょう。主と言っても借り物です…。知りたければ教えましょう!」
「いや、いい」
「そんな!」
あっさりとオリビアに断られ、烏瑪はなすすべもなくなってしまった。そこへ、ティレイサ姫と一緒にレッチェが戻って来た。
「あれ、何してんの?おじさん」
「くっ…!またあの時の坊ちゃんか!」
「姫」
「は、はい!」
オリビアはティレイサに告げる。
「レディアと紅、そしてテオルと一緒に表の馬車で待っていてくれ」
「ええ!?クも残りたい!」
「紅、わがまま言わないの」
「ぶー!」
「私が先導しましょう。マスター、ご無事で」
「ああ」
言うなり、テオルは先に行ってしまった。ティレイサも促されるが、その前にレッチェに向き直る。
「レッチェ」
「ティレイサ、後は任せて。心配いらない」
「ご武運を」
ティレイサはレッチェの手を取り、ぎゅっと握る。
「さ、行きましょう。ティレイサ」
「はい!」
ティレイサはレッチェの手を離し、時折振り返りながら表への道を進んでいく。
「では、私もそろそろ…」
「……」
烏瑪も、ついでに部屋を出ていった。
「ねえ、レディア」
「なあに?」
「さっきの、オリビアの。カルテアのって、おじさん言ってたけど。あれって…?」
「紅」
「うん?」
「勉強しに来てるんでしょう?」
レディアは少し困ったように。でもすぐ戻り、にっこりと紅に言ってやる。
「あー!レディアも、オリビアと同じ事言う!」
「ふふ。さ、行きましょう!」
そうして、オリビアとレッチェが残された。
「分かっていると思うがここは人の屋敷だ」
「それが?」
「大人しく暴れることだ」
「…ふん」
素直には従わないレッチェだが、情報だけは伝える。
「ディレーには、ヴァレッタという金髪をカールボブにした女の人がいる。魔人力の持ち主。その人が、ディレーを操ってる」
「そうか…」
オリビアは屋敷の気配に気を配った。
「まだ使用人たちもいる」
「分かってるよ」
レッチェは手を曲げ伸ばす。2人は客間を後にして、真っすぐにディレーとヴァレッタの方へと向かった。