SECHS1長篇小説第14話『青い星の子 1』。

投稿者: | 2021年1月30日

 4月。春うららかな季節。桜が舞い新学期を迎える人々は、これからの新しい出来事を想像してわくわくしている。戸惑いもあるだろうが、期待を胸にして、新たに向かっていくのだ。そんな季節。1人の男の子。さらさらの黒髪を綺麗に梳かして、黒い服を着ている。喪服にふさわしい服だ。告別式の参列者にお辞儀をして、静かにしている。

「可哀そうに」

「2人とも、家に押し入った強盗に殺されたそうだ」

「1人息子の涼君だけ、無事だったらしい」

大人たちの悪びれもない会話が涼の耳に届いてくる。

「財産だけは残したらしいが。涼君はこれからどうするんだ?」

「親戚は誰もいない」

涼は何も言わない。ただ喪主としての役目を全うしていた。

(涼…)

茶色い髪の男の子。涼のクラスメイトの1人。彼もまた式に参列していた。心配でいたたまれない。今すぐに涼の力になりたいと願っているが、彼はまだ無力だった。

「聖架」

小声で双子の妹に声を掛けられる。行かなければならない。

(涼…)

後ろ髪をひかれながら聖架はその場を後にするしかなかった。

それから時が過ぎ5月になった。

 レガント星の熱帯地域。レガント星を守るために、張り巡らせようとしている、ファナイリファビリティー機関のギルドの1つ、SECHS(ゼックス)ハウスがそこにはあった。SECHSハウスの周りにはメンバーしか立ち寄らない小さなプライベートビーチがあり、近くのサイフォンの街までの道は少しの林に囲まれている。その林の中には一軒の家がある。メンバーを診療する医師、クラース・ケルドレンが在している。ぼさぼさの灰色の髪に、少しの無精ひげをたくわえ、白衣を着ている。ラースは紅のおつきでもあったが、まま他のメンバーの診療にもあたっていた。

「まあ、無茶しないことだね」

「はーい」

黒髪を腰まで伸ばした少女、紅はクラースの診察を受けて、どこも異常なしと診断された。チューブトップにこげ茶のパンツ。黒い靴を履いている。

「よかったわ」

隣にいたふわふわとウェーブした栗毛をゆらし、レディア。モスグリーンのワンピースに、こちらは茶色のブーツを履いている。

「レディア。他のメンツが野蛮なんだ。君がしっかりしないとね」

「野蛮?そんな事は無いわ。皆頑張ってるのよ」

「しかしな。…最近魔物も活発に動いているようだ。他のメンツが暴走しないように、十分気を付けておいてくれよ」

「分かったわ」

レディアはクラースを納得させるために言ったものの、本当はそんな必要はないと信じていた。その時だ。ドンッと言う地響きがする。

「な、何!?地震!?」

「外に出るんだ!」

3人は外に出た。だが地響きは地震ではなく、一体の魔物だと分かる。

「ヒ、ヒュドラ!?」

「こんなところに!?」

ヒュドラは9つの首を持つ竜だった。竜は普段は、6つの惑星の1つ、リヴァース星で生きている。それが、たまに他の星に現れることはあると聞いていたが。

3人が驚いていると、同時に1つの首が落とされた。

「うわ!危ない!」

クラースは紅とレディアをかばいつつも迫りくるヒュドラをかわした。同じように、紅とレディアもかわしてくれたようだ。

「レッチェ!」

首を落としたのはレッチェだった。青い透き通るほどに美しい髪を太ももまで伸ばし、黒い身体のラインを拾う長そでのトップスと赤い皮ジャンを肩にかけずに、腕にひっかけている。黒い皮のパンツに黒いブーツを履き、ヒュドラを追って、こちらに向かってきている。

よく見ると他の3つの首も落とされている。だが核である首を落とさないことには倒すことは出来ない。レッチェの後ろから、もう2人いる。ブロンドを無造作にして、黒い半そでのトップスに、Gパン、茶色の靴を履いている、オリビア。紫がかった銀髪をこちらも太ももあたりまで伸ばし、白い長いコートを着ている、テオル。テオルの方は2刀を武器に1刀抜いていた。

「そちらに行かせてはいけません!」

「分かってるよ!」

「ギュアアアア!」

ヒュドラは雄たけびを上げ、クラース、紅、レディアに目もくれず暴れ狂い、それでも真っすぐに進んでいく。

「やば!」

「とどめを刺さないと」

「ち、違う。そうじゃなくって…」

「あっ!」

ヒュドラはそのまま、地面に置かれていた何かの装置を発動させたようだ。

「な、何!?」

レディアはヒュドラの周りの地面が光だし、ヒュドラの身体を包み込み、そのまま姿を消してしまった。

「消えた…だと?」

オリビアは目の前で起こったことに驚愕した。

「はは、いや不思議なこともあるものだな」

クラースは困難は去ったと、少し安堵した。

「……」

冷や汗をかいているのはレッチェだった。ヒュドラが消えた場所に、紅はいそいそと近づいた。そして何かを見つける。

「何かある…。あ!これ!」

紅は1つの円盤が地面に置いてあることに気づく。最も持ち主は、そこに隠しておいたようだった。みんな紅の側まで来た。

「何だ?」

「えっと…転移装置かな?俺用の…」

「何!?」

「何ですって!?」

今度はみんなが驚いた。

「転移装置だと?」

「待った待った。転移装置?これはおいそれと手に入るものじゃない。レッチェ、これをどうした?」

「いや。えっと…知り合いに貰った」

「貰っただと?」

オリビアが問い詰める前に、レディアは話を変える。

「それより、さっきのヒュドラよ!傷を負ったまま一体どこへ行ったっていうの?そっちの方を先になんとかしないと!」

「!そ、そうだ!ヤバい…」

「どこへ行ったの?レッチェ」

紅は問う。

「それは…俗に言う、青い星かな…」

「……はあ」

オリビアはため息をついた。

「と、とにかく、俺は今すぐ追いかける」

「6惑星の外部の星に、一体何の用があって…」

「うるせえなあ」

「何だと?」

「ストップー!」

今にも始まりそうな喧嘩を止めたのは紅だった。

「早くしないと、このままじゃ被害が出ちゃうかもしれないよ?それにヒュドラクラスとなれば、人に変化することだって出来るだろうし…」

「人の中に溶け込まれると厄介だな」

「行きましょう!」

レディアは告げるが、ここでも厄介なことがあった。

「それが、今ので力を使っちまったみたいで、全員は送れない」

「じゃあ、誰か残らなきゃ!」

「……まったく。何人送れそうだ?」

「あと、2人かな」

「はいはいはーい!ボクが行く!」

「レッチェが行くのは当然として、紅が行くのか?」

「まかせてよ!オリビア!なんたってボクは竜なんだからね!」

自信たっぷりな紅に、オリビアはそれでも選択肢がないものかと考える。

「時間がありません。マスター」

「しょうがない…。レッチェ、紅を頼んだぞ」

「分かってるよ。行こう、紅!」

「うん!」

レッチェは先ほどヒュドラが転移したように、紅の肩に手を置き、装置をもう片方の手に持ち、発動させる。

「わあ」

紅は感嘆の声を上げる。

転移装置の光がレッチェと紅を包み、やがて2人の姿を消した。

「行ったか…」

「無事に戻ってくるのよー!」

残った4人は一旦クラースの家で待つことにした。

To be continued